漢字教育士ひろりんの書斎漢字の書架
2015.1.  掲載

 漢検漢字教育サポーター養成講座 漢字学総論Ⅱ レポート

   

課題2 「漢字とその他の古代文字」を受講して

2012.8.4提出

 世界各地には様々な言語があるが、文字体系の種類はそれほど多いわけではない。文字を持たない民族や、他の民族から文字を借りてきて使用している民族が多いからである。古代から文字が必需品であったとは言えない。それでは、文字を作った人たちは、どういった必要(あるいは目的)から、どのようにして文字を作ったのか。講義を踏まえ、楔形文字と漢字を比較して考えてみる。(参考文献 ジョルジュ・ジャン著「文字の歴史」創元社)
 楔形文字も元は「絵文字」だったとのこと。写真でよく見る楔形文字はまるでデジタル記号のようなので、これは意外だった。また、漢字でいう「会意」の造字法があったという。「女」と「山」で「山の向こうから来た女=女奴隷」を表すなど。さらに、部分的に表音文字化して、同音異義の語を同じ文字で表すようになった。これは漢字の場合の「仮借」と同様の手法である。このように、楔形文字と漢字には、造字法の上で共通点が多い。
 文字を「言葉(文章)を記録するための記号」と考えると、絵文字の段階では、具体的な事物の象形が描かれるだけで、これですべての言葉を記録することはできないので、文字であるとは言えないことになる。しかし、会意や仮借の手法を取り入れることにより、より複雑で抽象的な概念も表現できるようになり、「文字」と呼べるようになる。ヒエログリフについては十分な知識がないが、絵文字の組み合わせで観念的な事象を表現したり、表音文字を取り入れたりしているようだ。漢字だけでなく、絵文字から発展した表意文字の一般論として、このようなことが言えるのかもしれない。
 では、古代の人は何のために文字を発明したのだろうか。
 漢字の場合、神とのコミュニケーションが目的だったと言われることがあるが、正確ではない。甲骨文字の登場以前から、卜占は行われていた。文字は、卜占の結果を記録して、王の正しさを誇示するために刻まれたようだ(あるいは神に対して「あなたはあの時こう言った」と申し立てる証拠とするためか)。これに対し、楔形文字は農業の会計帳簿の用途が最初だという。聖と俗との好対照であるが、どちらも当時の人々にとって、それを記録することが切実な欲求だったのだろう。しかし楔形文字は古い時代から、「ギルガメシュ叙事詩」のような「聖なる物語」の記録にも使われている。漢字の場合も、早くから、王国経営のための実務的文書にも使われていたのではないかと思えるのだが。